揺れない瞳
カウンター席に腰掛けて、膝の上に置いた両手をぎゅっと握りしめていると、隣の席に加絵ちゃんが座った。
彼女は私の顔を見て、『あらら』と呟くと、その視線を央雅くんに移した。

「央雅くん、ちゃんと言わなきゃ結乃には無理だよ。
察するなんて高等な感情分析は、今の結乃は習得してないから。
ちゃんと素直に言わなきゃ」

呆れたように言う加絵ちゃんは、近くにいた祥くんと一緒に肩をすくめた。

察する……?
何の事?
加絵ちゃんに、助けを求めるような気持ちで顔を向けた時、央雅くんの目の前にいた女の人が鋭い声をあげた。

「ねえ、あの女の子は央雅くんの何なの?仕事中の央雅くんの邪魔をしてるだけにしか見えないんだけど」

目の前にいる央雅くんを気にして声を抑えてはいても、その声には敵意らしきものが含まれているのがわかる。
私の事が邪魔だと、そう思っているのを隠そうともしていない。

こんなに嫌悪感を向けられる事なんて今までになかった私は何も言えなくて、ただ俯くだけ。はっきりと何も言い返さない自分が、なんだかずるい人間のような気がして更に悲しくなる。

「確かに、仕事には集中できないな」

央雅くんの低い声が、その場を包んだ。
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