揺れない瞳
「ば、ばかじゃないのか?そんな事言って、結乃ちゃんが……」

央雅くんの冷たい声に反応した祥くんが、慌てる。
そんな祥くんを無視するかのように、央雅くんは手元にあったグラスにお酒を注いだ。淡いピンク色のカクテルは、シュワシュワと泡がうまれて綺麗だ。
そのグラスを、そっと目の前の女の人の手元に置くと

「お客様の注文にも、気が散って集中できないから、迷惑をかける。そういう意味では、結乃にはここには来て欲しくない」

「あ……そうだ……ね。迷惑かけて、ごめんなさい」

淡々と言う央雅くんの言葉に、ぐっと胸は痛くなる。
私がここに来る事が、それほど央雅くんの迷惑になるなんて思わなかった。
好きだと言われて浮かれた途端に突き放されて、どうすればいいのか、よくわからない。

瞳の奥がどんどん熱くなってきて、気付けば涙が頬をつたっていた。
悲しくて悲しくて、我慢できなくて。

唇をぎゅっと噛みしめた。

「迷惑なんて、言ってないだろ。ただ、気が散るから来て欲しくないだけだ。
そうじゃなかったら、バイト中も俺の近くにいて欲しい。
それどころか大学にも一緒に来いって思う。
自分のものはいつも手離したくないし、誰にも渡したくない。

だから、ここに結乃がいる事自体は、嬉しいんだよ」

その言葉にそっと顔を上げると、いつの間にか私の目の前に央雅くんが立っていた。


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