揺れない瞳
お店に来てからの、央雅くんから向けられている冷めた表情に変化はないけれど、私を射る瞳の奥には優しい色が見えた。普段私を大切だと言う時に、一緒に届けられる温かな色が揺れている。

央雅くんは、私の頬を流れる涙を親指で拭ってくれた。
何度も央雅くんの前で泣いたけれど、その度に。
拭ってくれる悲しみに代えて、それ以上の愛情を注いでくれる気がする。
央雅くんの温かな親指の優しさが、私の気持ちを浮上させてくれるようで、居心地がいい。そして、今までになく、幸せな気持ちになる。

「仕事に集中できないってわかってたから、店に呼ばなかったのに来るし、来たら来たで祥と仲良くやってるし。むかついたからちょっといじめた。
でも、ここに結乃がいる事は嬉しいんだから、泣かなくていい」

バイト中だからか、普段のトーンよりも低い声だけれど、央雅くんの言葉は甘くて、胸に響く。
私がここにいる事を喜んでくれていると、そう言ってくれただけで、涙も止まる。

央雅くんの言葉一つで私の感情が大きく動く。
そして、その事を央雅くんが十分にわかっている。

……それを自然に受け止めている私はきっと、幸せだ。

私の涙は止まったけれど、まだうまく話せない私に、央雅くんは小さく肩をすくめると、

「じゃ、しばらくここで待ってて。あ、加絵ちゃんも、時間があるなら一緒に」

そう言って仕事に戻った。

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