揺れない瞳
店長と呼ばれた人は、きっと40歳くらい。
切れ長の瞳が印象的な長身の男性。

女の人がお店を出て行ったあとも、苦笑している。

「央雅のファンは多いけど、あの彼女は群を抜いてたからな。
あれだけ怒るのも仕方ないさ。
……でも、客寄せには欠かせない央雅を首にするわけないのに。
あ、彼女には聞かせたくないか。悪い悪い」

悪びれた様子もなく、からっと笑いながらの言葉は嫌味もなく、単純に央雅くんの事を見た目の良いバイトだと言っているように聞こえた。
くすくすと笑う瞳も温かくて、私は抵抗なく笑顔を返した。

「央雅って女の子に興味ないのかと思ってたぞ。かなりもてるのに作り笑顔しか見せないし、お店以外で会いたがる女の子をかわしてばかりだからな。
……でも、こんな可愛い彼女いたなら仕方ないか」

印象と違って、よくしゃべる店長さんだな……。
央雅くんが女の子にもてるってこれほどしつこく言ってくれなくてもいいのに。
それに、央雅くんが人寄せだなんて失礼な事を笑顔で言うし……。

央雅くんに対する不安を増す言葉が続けられて、私はもちろんいい気分じゃない。
私以外の女の子が、央雅くんの周りにたくさんいるって知らされて、悲しくならないわけじゃない。

それでも、店長さんの隣で仕事を続けている央雅くんの顔には小さな笑みが浮かんでいて、店長さんとはかなり親しいんだとわかる。
そして、央雅くんは手元のグラスから目をそらさないままで呟いた。

「こんな可愛い彼女、隠すのが普通でしょ。他の男にとられたくないのに、わざわざ人目にさらすような馬鹿な事をするわけがない」

さらっと言ったその声に、私も店長も、そして加絵ちゃんも、驚きのあまり何も言えなかった。

淡々とカクテルを作っている目の前の男性は、本当に央雅くんなんだろうかと、しばらく目がそらせなかった。
< 276 / 402 >

この作品をシェア

pagetop