揺れない瞳
「央雅くん?あの……今なんて言ったのかが、あの……よくわからないんだけど」

きっと聞き間違いに違いない。
私が胸の奥で望んでる思いが、央雅くんの言葉として勝手に変換されたんだと思う。
ずっと央雅くんと一緒にいたい。

わがままな望みだから、自分でも気づかない振りで、無意識に諦めていた本心。
そんな本心のいたずらが、央雅くんの言葉を誤って聞き取ってしまったんだと思う。

そう理解すると、何だか気持ちが落ち着いてきた。
そう、私の願望に違いないんだ。
まさか、央雅くんが私と一緒に暮らしたいって思うわけないし……。
ずっと一緒にいたいって思ってくれるなんて、単なる私の聞き間違い。

一人で納得して、ようやく鼓動が落ち着いた。
小さく息を吐いて、そっと央雅くんと視線を合わせると、相変わらず優しく私を見つめてくれる光を見つけた。

そして、その優しい瞳の光と同じくらい優しい声。

「結乃と、一緒に暮らしたい」

「……一緒に……」

「俺の目の届かない所で、他の男にさらわれるかもって心配するのも嫌だし」

「……さらわれる……」

「そう。とにかく俺の手元にいて欲しい。一緒に暮らして、結乃の時間と俺の時間を同じものにしたい」

優しい瞳は、私を大切に思ってくれる気持ちを隠すこともなくて、まっすぐにその思いを私に向けてくれる。瞳の奥はただ私を求めてくれているように見える。
私を逃がさないと決意しているようなその瞳から目をそらせないままで、私はようやく気付いた。

まさか、こんなに真摯に想いを告げてくれる央雅くんの言葉を、単なる聞き間違いだと受け止めるなんてできない。
央雅くんは、本当に、私と一緒に暮らしたいと思ってくれているんだ……。

体中が一気に熱くなった気がした。




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