揺れない瞳

結乃との待ち合わせ場所は、俺の地元の駅。
約束していた近所の店に、ランチを食べに行くことになった。

『楽しみにしてるね』

電話の向こうで、照れながら呟く結乃の顔を思い浮かべて、それだけで俺の心も温かくなった。
気持ちを通じあわせてから、というより、出会ってからそれほどの時間はたっていないけれど、結乃の存在が、どんどん大きなものになっている。
大学が冬休みに入ってからは、殆ど毎日結乃と過ごしている。

結乃のバイト先に迎えに行くのはもちろん、俺がバイトの時には、カウンターの端に座らせて、その姿を視界の隅に入れながら仕事をしている。

どこまで結乃に夢中なんだと、大学の友達は呆れている。
結乃と出会ったコンパに一緒に参加していた友達の中には、

『俺も狙ってたのになあ、央雅にとられたか』

と冗談交じりに言う奴もいて、やっぱり結乃は男の目をひくんだなと感じる。
そして、結乃は誰にも渡さないと、改めて思う。

駅の改札で、結乃を待っていると、何人かの人に混じって結乃の姿が見えた。
ベージュのコートに身を包んで、同じ色のロングブーツを履いた結乃は、確かに綺麗で、薄化粧にも関わらずくっきりと整った顔。
そんな結乃に、周りの男たちがさりげなく視線を送っている。
それに気づかないまま、きょろきょろと不安げにあたりを見回す結乃に、声をかけた。

「結乃っ」

俺の声に反応した結乃は、俺と視線が合った瞬間ゆっくりと笑顔が浮かび、俺の体全体が柔らかい思いに包まれる。
嬉しそうに駆け出す結乃の笑顔、何度見せられても、まだまだ見たいと。
そして、俺だけが見たいと思う。
< 286 / 402 >

この作品をシェア

pagetop