揺れない瞳
キッチンでは、芽依さんがコーヒーを用意してくれていて、美味しそうなケーキが並んでいた。

「うちの近所のお店のケーキなの。どれもおいしいんだけど、チーズケーキは絶品よ」

さ、食べて食べて、と勧めてくれる芽依さんは、央雅くんの腕にいる夏芽ちゃんを抱き上げて、『夏芽には、シフォンケーキあるからねー』と額と額を合わせた。
きゃっきゃと笑い声を上げる夏芽ちゃんを見ながら席に着いた私と央雅くんは、美味しそうなケーキに顔を見合わせて。

『おいしそうだね』

と瞳と瞳で話した。
お互い、くすっと笑った顔を見ながら、そっと照れた気持ちも浮かべた時、

「いいもの見ちゃったな」

芽依さんがくすくす笑っていた。

「央雅がそんなに何かに夢中になってる顔初めて見た。
あ、ケーキに夢中って意味じゃないからねー」

おそらく、からかう気持ちがほとんどで、央雅くんだけじゃなく私に対しての言葉だと思うけど。
なんだか嬉しそうに口元をほころばせる芽依さんに、どう顔を向けていいのかわからない。
隣にいる央雅くんを見ると、悔しそうに顔を歪めながらケーキを選んでいて、そんな様子に気づいているはずなのに、芽依さんは更に軽い口調で

「お揃いの指輪だって輝いてるしねー。今が一番楽しいよねー」

央雅くんの顔を覗き込むようにからかってる。

それを聞いた瞬間、はっと左手を見た私。
央雅くんとお揃いの指輪がきらきらしていて、気持ちがなごむ。
そうだよね、こんなに堂々とはめてたら、芽依さんの目につくよね。

「……今が一番なんかじゃないから」

「え?央雅、何?」

央雅くんと芽依さんの会話に意識を戻すと、拗ねたように眉を寄せている央雅くんが私をじっと見ていた。

「結乃と俺は、今が一番楽しいわけじゃない。これからもっと楽しくて幸せになっていくんだ。……間違えるなよ」

芽依さんに言ってるってわかってるけど、視線は私に向けられていて。
どきどきと鼓動が激しくなって、気持ちはいっぱいいっぱいになっていく。
さっきまで二人きりで過ごしていた甘い時間を思い出して顔が熱い。

「芽依ちゃんが俺をどれだけからかっても、俺平気だし。
それくらい好きじゃなきゃ、ここには連れて来ない」

ふふん、と聞こえそうなくらいに生意気な、それでいて嬉しそうな央雅くんに、芽依さんは一瞬言葉を失ったけど、大きく笑顔を作ったかと思うと

「……とうとう、央雅も私から離れてほかの女のものになっちゃうのか。
姉としては寂しいな。でも、結ちゃんを選んだっていうのは誉めてあげる」

なんだか切ない声にも聞こえたのは、愛する弟へのはなむけなのかな。

入り込めない二人の雰囲気に優しい気持ちになれたと同時に、私はそんな自分にほっとした。

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