揺れない瞳
結局、央雅くんの家で夕食にお鍋を囲む事になった。
芽依さんが用意してくれた材料を切ったり、お鍋用のお出汁を作ったり。
二人でキッチンに並ぶ時間は、この前と違って私の気持ちも穏やかだ。
央雅くんと気持ちが通じ合って、ちゃんと恋人だと芽依さんにも言ってくれたせいか、芽依さんとも距離が近くなった気がするから不思議。

お昼間元気に遊びまわった夏芽ちゃんは、夕方お風呂に入ってからぐっすり眠っている。リビング横の和室で見せてくれる寝顔はとてもかわいい。
やっぱり夏基さん似かな。

その夏基さんも、めずらしく早く仕事が終わったらしく央雅くんの家に来てくれた。
四人で囲むお鍋は、もちろん温かくて美味しいけど、央雅くんの自宅にいる自分が不思議で、少し照れくさい。

「ようやく央雅も落ち着いたんだな」

ビールを飲みながら、嬉しそうに笑う夏基さんは、芽依さんから取り分けてもらったお肉やら野菜を食べている。
芽依さんと並んでる様子はとても穏やかで優しくて、時折芽依さんに触れるのはあたりまえのようで。
本当に仲が良い夫婦で羨ましい。

「いっそ一緒に暮らせばいいのに。……ま、無理か。まだ学生だもんな」

夏基さんの軽い言葉にすぐに反応した央雅くんは、首をかしげながら

「何で無理?学生でも同棲してるやつらいっぱいいるし。俺、そうしようかと考えてるんだけど」

「あ、そうなのか?でも、結ちゃんの都合もあるんだから突っ走るなよ。結ちゃんのお父さんだって心配するだろうし」

「結乃のお父さんには、一度会おうと思ってる。ちゃんと話をして一緒に暮らしたいから」

央雅くんと夏基さんが話している横で、私は何も言えずにただ聞いているだけ。
私が央雅くんと暮らすっていう話なのに、なんだか蚊帳の外にいる気がする。




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