揺れない瞳
「で、いつなら結乃のお父さんと会える?」

囁くような声に、ふっと我に返ると。目の前に央雅くんの顔があった。
その整った顔にすいこまれそうにドキドキして、更に央雅くんにもっと近づきたくなる。

「私……実は、明日の晩に父と会う約束をしてるんだけど」

「え?あ、そうなのか?なんだか突然だな」

「うん。戸部先生に、『会ってもいい』って伝えてもらったら、すぐに連絡がきて。
明日の晩会う事になったの」

メールには、父からの喜びの言葉が並んでいた。私が父と会う事を承諾した事への感謝と、会いたい日が記されていて。

『結と会える事は、最高のクリスマスプレゼントだ』

とも添えられていた。父と会う事を決めたのは自分の意思。
戸部先生に言葉を添えられた事に違いはないけれど、これまで私が享受してきた父からの援助と、私の父への拒否感の曖昧さが苦しくて、父に会わないといけないと、そう思ってたから。

そんな私の複雑な気持ちゆえの事なのに、私と会う事がクリスマスプレゼントだと言ってくれる父の気持ちが、とても切ない。

「大丈夫なのか?」

心配げな瞳を向ける央雅くんに、無意識に身体を預けた。
大丈夫だと言い切れない不安な気持ちを隠せないまま、央雅くんの胸にゆっくりと寄り添った。

「結乃……?」

「ちょっとだけ、ちょっとだけこのまま」


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