揺れない瞳
私の記憶の中の母は、小柄で可愛らしい顔をした人。
にこにこ笑っている笑顔には子供のあどけなさが残っている、まだ高校生の母の顔が私の記憶の大部分を占めている。
既に成人式を終えて、母が私を生んだ年齢を超えた私には、その記憶の母が、本当に私の母だったのか、曖昧だ。
いつも絵を描いていて、私をモデルにしながら絵筆を滑らせていた記憶。
本当に、母は絵を描く事が好きだった。
私が小学生になる頃、私を養育する事に積極的でなかった母は私が施設へ入る事になってもあっさりとそれに従い、それ以来私を取り戻そうとはしなかった。
それどころか、画家として実績を積み始めた途端、海外に拠点を移して私の事は二の次。
戸部先生から時々聞かされていた母の近況がなければ、本当に母との縁は切れていたかもしれない。
ここ数年、時々雑誌で目にする母の作品でしか接点はなくて、母がどんな顔だったのかすら簡単には思い出せない。
……捨てられた、とわかってはいるけれど、現実を思うとやっぱり切ない。
だから、そんな母が離婚の時に私の親権をどうして得たのかがわからなかった。
私を育てるつもりがないのなら、せめて父に私を託して欲しかったとそう思っていた。
もし父と一緒に暮らしていれば、少なくとも一人ぼっちではなかったはずなのに。
どうして私を引き取ったのかと、責める気持ちも強かった。
そして、そんな私の状況を伝えられていた父が、私を引き取ろうとしない事実に傷つき、父からも見捨てられたという悲しさは、私の生きる力をも奪うくらいに大きかった。
それでも、施設のみんなや、戸部先生の愛情のおかげで生きてこられた。
寂しくても切なくてもつらくても。
私はちゃんといい子にしながら生きてきた。
大学で、大好きな洋服作りも学ぶ事ができている。
父さんからの援助によって、生活は充実している。
……なのに、今更私は父さんの子じゃないって。
突然そう言われても。
「私、誰の子なの?」
にこにこ笑っている笑顔には子供のあどけなさが残っている、まだ高校生の母の顔が私の記憶の大部分を占めている。
既に成人式を終えて、母が私を生んだ年齢を超えた私には、その記憶の母が、本当に私の母だったのか、曖昧だ。
いつも絵を描いていて、私をモデルにしながら絵筆を滑らせていた記憶。
本当に、母は絵を描く事が好きだった。
私が小学生になる頃、私を養育する事に積極的でなかった母は私が施設へ入る事になってもあっさりとそれに従い、それ以来私を取り戻そうとはしなかった。
それどころか、画家として実績を積み始めた途端、海外に拠点を移して私の事は二の次。
戸部先生から時々聞かされていた母の近況がなければ、本当に母との縁は切れていたかもしれない。
ここ数年、時々雑誌で目にする母の作品でしか接点はなくて、母がどんな顔だったのかすら簡単には思い出せない。
……捨てられた、とわかってはいるけれど、現実を思うとやっぱり切ない。
だから、そんな母が離婚の時に私の親権をどうして得たのかがわからなかった。
私を育てるつもりがないのなら、せめて父に私を託して欲しかったとそう思っていた。
もし父と一緒に暮らしていれば、少なくとも一人ぼっちではなかったはずなのに。
どうして私を引き取ったのかと、責める気持ちも強かった。
そして、そんな私の状況を伝えられていた父が、私を引き取ろうとしない事実に傷つき、父からも見捨てられたという悲しさは、私の生きる力をも奪うくらいに大きかった。
それでも、施設のみんなや、戸部先生の愛情のおかげで生きてこられた。
寂しくても切なくてもつらくても。
私はちゃんといい子にしながら生きてきた。
大学で、大好きな洋服作りも学ぶ事ができている。
父さんからの援助によって、生活は充実している。
……なのに、今更私は父さんの子じゃないって。
突然そう言われても。
「私、誰の子なの?」