揺れない瞳
「俺もラストまでだから帰り送ってく」

「え…?」

「この辺りは住宅街だし駅まで暗いからな」

「あ…あの…」

突然かけられた言葉に、驚きしかない私はちゃんとした反応ができないままにいた。

バイトの吉本颯くん。
みんなから『はやて』と気軽に呼ばれている男の子。
大学三回生で、もう二年近くこのバイトを続けているらしい頼れる先輩。

見た目も整っているせいか、彼目当ての女の子のお客さんもいるけれど、本人はあまり意識していないように見える。

おぼつかない私の危なっかしい仕事ぶりに気を配ってくれる事は頼りにしてるけれど、わざわざ帰りに送ってもらうほど親しくはなくて。

今の言葉が信じられない。

あまり人と深く関わらない私の性格故か、カフェのバイト仲間とも浅いお付き合いしかできない私。

一人で帰れるんだけど…。

駅の真ん前のマンションだし。この間だって、央雅くんがあまりの駅からの近さに驚いてたくらいだし…。

…。央雅くん。
コンパの後送ってくれてから、連絡ない…。

気にしないようにしていても、ふとした瞬間に思い出してしまう。
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