揺れない瞳

「え……。うん……、一緒に暮らしたいとは思うけど……」

「俺、大学の勉強がどんどん忙しくなってくるから、結乃と会える時間も減ってくると思うんだ。だから、一緒に暮らさないか？」

「ん……そうできたら、とは思うけど。私、恋人ができたのも初めてで……その事に慣れるのに精いっぱいで……それに、父さんが」

俺の向かいの椅子に座った結乃は、テーブルの上で両手を合わせて落ち着かないように視線を揺らす。
時々絡む俺との視線に照れているのか、俯きがちになるその顔がかわいくて、更に俺の気持ちは強くなる。

「お父さんに挨拶しないといけないなら、ちゃんとするから。
中途半端な気持ちで一緒に暮らしたいって言ってるわけじゃないんだ。
殆ど一人暮らしのこの家で一緒に暮らしてもいいし、結乃の大学の近くに部屋を借りてもいい。……無理か？」

どうして結乃を側に置いて一緒に暮らしたい俺は、結構強気な言葉を連ねて結乃に迫った。
押しに弱そうな結乃を攻めてるという自覚はあって、結乃がかわいそうに思えなくもないけれど、それでもやっぱり結乃と一緒に暮らしたい。

一旦欲しいと思ったら、手離すなんて考えられない。
ようやく自分の気持ちを正直に結乃に伝える事ができて、結乃もその気持ちに応えてくれた今、自分でも信じられないくらいに強く結乃が欲しくてたまらない。

「……央雅くんの事、好きだけど、なんだか急な事ばかりで、どうしていいかわからないし、父さん、きっと反対するし」

戸惑いを隠せない結乃の声。
きっと、俺がここまで結乃を欲している事を信じられないんだろうな。
俺だって、ここまで結乃を好きになる自分を予想できなかった。

「お父さんが心配しなくても済むように、結婚しようか」

「え？結婚？」

今急に口にしたわけじゃない。
ここ数日、何度となく考えてきた。
もう、他の女はいらない。結乃が側にいればそれでいい。

「結婚、したくない？」

俺の言葉に、ただ目を見開いてるばかりの結乃の心が大きくざわついてる事が
わかって、俺は口元が緩むのを抑える事ができなかった。