揺れない瞳
「罪深いなんて……そんなの違うって言っても気休めなのかな」

静かな結乃の声が響いた。

「芽依さんの境遇は切ないけど、央雅くんだって十分耐えてきたって思うし芽依さんという呪縛から解放されることを喜ぶ気持ちって、持って当然だと思う……こんな事言うのも気休めだね」

深く考え込みながら呟く結乃は、一つ一つの言葉を紡ぐ度に頷いている。
それはまるで、結乃自身の気持ちを確認しているようにも見える。

「きっと、私が父さんに感じた申し訳ないっていう気持ちも一緒だね」

ふふふ、と笑いながらも、どこか切ない表情がまだ残っている。
きっと、結乃の心の中は葛藤中なんだろう。

「父さんが苦しそうに顔を歪める姿を見て、ほっとしてしまう私はおかしくないのかな。当然なのかな……。そんな自分を受け入れていいのかな」

「いいんだよ。それが当然なんだ。……って言っても気休めなのかな……?」

結乃の言葉を真似てそう言うと、まだ涙をためたままの芽依がくすっと笑った。

……こんなに重い話をしている最中にも関わらず、うるうるとした瞳で物言いたげな視線を投げられると、それだけで俺の心はぐっとなる。
本当にかわいいなあと、しみじみ感じる。

きっと、今日結乃の父親だって俺と同じように、

『結乃が誰より綺麗だ』

そう思いながら結乃との時間を過ごしたはず。
それでも、結乃への申し訳なさや後悔に溢れて苦しい気持ちを見せてしまった展開は、自分の意に反していたに違いない。



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