揺れない瞳


ラスト近くになって、オーダーストップを過ぎた頃には体中が疲れている。
慣れてきたとはいっても人と触れ合う仕事には緊張感が抜けなくて、笑顔もかたくなってくる。

お客さんも少なくなって、厨房の慌ただしさも薄れてきたのを確認したと同時にホッとする。

人づきあいに距離を置く私がこんな人気のあるカフェで仕事をしているなんて、自分でも信じられないけれど、今になってみると自分改革になって良かったのかもしれない。

施設に入る以前の幼かった頃に作られた私の中身は簡単には変えられないし、私の人生のあらゆる選択肢が寂しい過去を引きずってる。

重苦しくて悲しくなる私の小さかった頃の思い出が、軽々しく未来を明るいものだと思わせてはくれないけれど。

それでも、今このカフェで笑顔を作れるまでに私は変わっていってるのを感じる。

それだけでも。

ここで働かせてもらえて良かったと思う。

大学以外に自分の居場所を見つけられたのも、幸せだなと思える。
だから、このお店に私を連れてきてくれた加賀さんにはとても感謝していて、頑張って役に立ちたいと思う。

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