揺れない瞳
「央雅くんがあっさりと諦めるから、拍子抜けしたっていうか、ほっとしたっていうか……。なんだかよくわかんないし。
それに、時期を待ってるうちに、私の事を好きじゃなくなるのかなとか考えちゃって不安でたまらなくなるし」

俯いてたどたどしく話す結乃の気持ちは予想外で、俺は言葉を失ったままで彼女を見つめる。
ほんのり赤くなった頬は、結乃の照れと、自分の気持ちを口にした勇気からのものだろうけど。
色白の肌に映えるその色は、待つと決めた結婚を、思わず蒸し返してしまいそうな力も持っていて。

「ありえないから」

「え?」

「俺が結乃の事を好きじゃなくなるなんてこと、ありえない。
そんな簡単な気持ちで結婚って言葉を口にしたわけじゃないから、安心していい。俺があっさりと諦めたっていうのは誤解。
結乃が望まない事を今すぐしたくないから無理矢理自分の気持ちを抑えてるだけ。それはちゃんと理解して欲しい」

「あ……、はい」

「結乃がお父さんに会って気持ちがどう動いたのかは結乃にしかわからないけど、俺が芽依ちゃんに対して持っていた気持ちと重ねてしまう。
だから結婚は待つから。お父さんとの関係を改善したいなら応援だってするし、何があっても守るから、不安にならなくていい」

俺の言葉に驚いた結乃は、しばらくじっと思いを巡らせていた。
そして、次第に柔らかくなった表情で小さく何度か頷くと

「今が夢の中なら、醒めないで欲しい……」

そう呟いた。

俺としては、夢なら早く醒めて結乃と結婚したいんだけど。
そんな本音は胸にしまって、結乃が穏やかに幸せに過ごせればいいかと。
小さく息を吐いた。





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