揺れない瞳

揺れない瞳

①

父さんと会った日は、その事だけでも忘れられない日。
ずっと父さんを拒んでいた私には、落ち着いて言葉を交わせるかどうか不安だった。
でも、私が抱えていた不安以上に、父さんが抱えていた不安の方が何倍も大きいと気付いた瞬間に、私の中にあった父さんに対しての緊張感が緩んだような気がした。

そして、自分でも予想外の感情に苦しむ事になった。
そう、父さんが持っている私への苦しみや申し訳なさを目の当たりにした時に湧き上がった自分の知らなかった感情。

父さんが苦しむ事は当然だと、どこか落ち着いて受け止める自分の感情が嫌でたまらなかった。
結局私は長両親を恨んでいたのかもしれないと、そう感じて。
自分自身が嫌いになりそうだった。

だから、そんな私の姿を央雅くんに知られる事が怖くて、嫌われてしまいそうで不安でたまらなかった。
一旦味わった央雅くんからの愛情を手離す事になるかもしれないと思うとつらくて仕方がなかった。

けれど、そんな私の気持ちを簡単に察した央雅くんは、私を見捨てる事なんかなかった。
むしろ、沢山の嬉しい言葉を紡いでくれて。

『いつか、結婚しような』

甘い未来まで用意してくれた。

だから、今日は。

父さんと会っただけでなく、央雅くんからプロポーズされた忘れられない日となった。