揺れない瞳
父さんから持たされたたくさんのおいしい料理を堪能した後、私は遅くならないうちに帰る事にした。

ご両親が仕事で不在だとはいっても、やっぱり央雅くんの自宅で長居するのは落ち着かない。

『泊まっても構わないけど』

央雅くんは簡単にそう言うけれど、それは私にはとてもハードルの高い事。
初めて恋人ができて、これから恋愛の仕方を覚えていかなきゃならないのに、いきなり央雅くんの自宅になんて泊まれない……。
何度か私の一人暮らしの部屋で、央雅くんが夜を明かしたことはあるけれど、それとはなんだか違う気がする。

帰る支度をしながら、そんな事をぼんやりと考えていると、ソファにのせていたかばんが床にどさっと落ちた。

床に散らばったカバンの中身を慌てて集めていると、

「その雑誌、店にもある」

央雅くんが、私の足元に飛び出した雑誌を手に取った。

「あ、それ……」

呟く私の言葉を気にせず、央雅くんは、厚みのある雑誌をぺらぺらとめくりながら怪訝そうに首を傾げた。

「これって、美術関係の雑誌だよな？それも、3年以上も前の号をどうして今持ってるんだ？」

ん？と私を見つめる央雅くんに、どこから何を答えればいいのか。
わからないまま、ただ曖昧に笑った。

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