揺れない瞳
そんな私の戸惑いをわかってるかのように口元だけで満足そうに笑った央雅くんは、再び雑誌に視線を戻すと、はっとしたような表情をして呟いた。

「この絵、店に飾ってある」

「え?」

「間違いない。店に飾ってある絵だよ、店長が気に入ってて自慢されたからよく覚えてる」

へえ、と呟きながら央雅くんが指さした絵を見ると。
目に入ってくる緑。

「あ……これ」

濃淡ある緑が一面に広げられた水彩画。
太陽らしき金色の光が躍るその緑の中には、そよそよと風が吹いているような涼やかささえ感じられる。
初夏の午後、穏やかな幸せの風景の中には、地面に座って空を眺めている後姿がある。

まだ3歳くらいにしか見えない小さな後姿の左右には、ほんの少し見える横顔。お父さんとお母さんの静かな笑顔がある。
空に向けて両手を上げる女の子に、静かに囁く言葉が今にも聞こえそうな表情。

「この絵、見てると優しい気持ちになるんだよな。
店のバイト達もたまに見入ってるんだ。……いい絵だな」

「そう思う?」

「……ん?思うけど。結乃は気に入らない?」

「私は……この絵を初めて見た時、嬉しかったよ」

どう言えばいいんだろうって、少し迷った。

「嬉しい?この絵が好きってことか?」

怪訝そうな央雅くんの声に、曖昧に笑ってみた。

「好きだよ。だって、真ん中の女の子は私だもん」

「は?」

大きな声で驚く央雅くんは、雑誌の絵と私を何度か見比べて。
何も言えないままただ驚いていた。

……私も、この絵を見た数時間前は同じように驚いてたな。

「ほんと、びっくりだね……」





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