揺れない瞳
実際に目にすると、その絵の持つ強さに驚いた。
雑誌に掲載されていた絵からも、作者である母さんの気持ちをぼんやり知る事はできたけれど、まったくレベルが違った。
全てだ。
母さんが抱えていたに違いない強くて太い、そしてそれを誇りに思っているような気持ちの強さの全てが絵に表現されていた。
単なる緑ではなく、簡単に作り出された金色ではなく。
母さんの思いと強さが作り出した彩りが、そこにあった。
幼い頃に私が過ごしていた愛情あふれる世界が、そこにあった。
「この赤いブラウス、覚えてる。気に入ってよく着てた」
絵の中の私は、赤いブラウスを着ていた。
長袖のブラウスの袖口についていた白いレースが大好きで、そのブラウスばかりを着てたっけ。
その白いレースも、ちゃんと絵には描かれていて嬉しくなる。
そして、私の両隣にいる両親の後姿からも愛情が伝わってきて切なくもなる。
「この頃の結乃に会いたかったな」
私の隣で一緒に絵に見入っている央雅くんがぼそっと呟いた。
驚きと感激に満ちた央雅くんの瞳は、じっと絵だけを見つめている。
「あ……でもそうなると、俺ってこの絵の結乃よりも小さな子供なんだな」
くすくす笑ってる。
「今の俺のまま、この絵の結乃に会って抱きしめてやりたい」
……きっと、私の小さな頃からの寂しい日々を思ってくれてるんだろうな。
「ありがとう……」
そんな央雅くんの気持ちが嬉しくてたまらない。
央雅くんの事をますます愛しく思える。
ふたりしてなんとなく照れながら、しばらくその絵を見ていた。