揺れない瞳
父さんが私に手渡した雑誌には、母さんのインタビュー記事が掲載されていた。
この雑誌は3年ほど前に発行されていて、当時話題になった絵についての記事だ。その絵というのが央雅くんのバイト先に飾られていたもので、母さんにとっても大切な気持ちを注いだ作品らしい。
『緩やかな時間の流れの中で、このままずっとここにいたいと願っていた気持ちを絵にしました。結局、娘の側で愛情を注ぐ事も笑顔を向けてあげる事もできない今の状況になってしまいましたが、それでも、この絵に閉じ込めた時間に戻りたいと、思います。
娘の父親と愛し合っていたあの頃が、私にはかけがえのない時間でした』
絵について語る母さんの言葉には、三人で過ごしていた頃への回顧が満ちていた。
父さんと愛し合っていたと、ちゃんと語っているくだりを読んだ時には胸がいっぱいになった。
私の幼い記憶の中にしっかりと残っている風景は、父さんと母さんが交わす愛情あふれる視線。
その視線の近くで、子供ながらにその意味を理解している自分が笑っていて。
明るい光の中で三人だけで生きているような錯覚にとらわれている風景を思い出す。
父さんと母さんが離婚して、私は一人ぼっちになって施設で育つ事になった後も、その時の明るい光を思い出しながら生きてきた。
両親から捨てられた現実を、受け入れながら悲しみを体にまとっていても、幼い記憶を頼りにしながら過ごしてきた。
母さんが,まだ幼い私に言った言葉。
『母さんは結が大好きよ。でもね、父さんも大好き。でもね、父さんは母さんの事好きじゃなくなったから、死んじゃいたいほどつらいの。
父さんの事ばかりを考えて、母さんおかしくなりそうなの。
だから、父さんがいなくてもちゃんと生きていける為に、大好きな絵を描かせてちょうだい。
そうすれば、元気がでるから、絵を描きたいの。
父さんがいなくて寂しくて、母さんがおかしくなったり、死んだりしたら、結は一人になるから。
そんなこと、母さんもしたくないから。
思いっきり絵を描かせて欲しいの。
そうすれば、父さんの事を忘れられるから。
結をほったらかしにして、寂しい思いをさせちゃうかもしれないけど。
この世界のどこかで、母さんは生きているって思ってて』
母さんの寂しい表情からは、父さんの事が大好きだという気持ちが溢れていた。
この雑誌は3年ほど前に発行されていて、当時話題になった絵についての記事だ。その絵というのが央雅くんのバイト先に飾られていたもので、母さんにとっても大切な気持ちを注いだ作品らしい。
『緩やかな時間の流れの中で、このままずっとここにいたいと願っていた気持ちを絵にしました。結局、娘の側で愛情を注ぐ事も笑顔を向けてあげる事もできない今の状況になってしまいましたが、それでも、この絵に閉じ込めた時間に戻りたいと、思います。
娘の父親と愛し合っていたあの頃が、私にはかけがえのない時間でした』
絵について語る母さんの言葉には、三人で過ごしていた頃への回顧が満ちていた。
父さんと愛し合っていたと、ちゃんと語っているくだりを読んだ時には胸がいっぱいになった。
私の幼い記憶の中にしっかりと残っている風景は、父さんと母さんが交わす愛情あふれる視線。
その視線の近くで、子供ながらにその意味を理解している自分が笑っていて。
明るい光の中で三人だけで生きているような錯覚にとらわれている風景を思い出す。
父さんと母さんが離婚して、私は一人ぼっちになって施設で育つ事になった後も、その時の明るい光を思い出しながら生きてきた。
両親から捨てられた現実を、受け入れながら悲しみを体にまとっていても、幼い記憶を頼りにしながら過ごしてきた。
母さんが,まだ幼い私に言った言葉。
『母さんは結が大好きよ。でもね、父さんも大好き。でもね、父さんは母さんの事好きじゃなくなったから、死んじゃいたいほどつらいの。
父さんの事ばかりを考えて、母さんおかしくなりそうなの。
だから、父さんがいなくてもちゃんと生きていける為に、大好きな絵を描かせてちょうだい。
そうすれば、元気がでるから、絵を描きたいの。
父さんがいなくて寂しくて、母さんがおかしくなったり、死んだりしたら、結は一人になるから。
そんなこと、母さんもしたくないから。
思いっきり絵を描かせて欲しいの。
そうすれば、父さんの事を忘れられるから。
結をほったらかしにして、寂しい思いをさせちゃうかもしれないけど。
この世界のどこかで、母さんは生きているって思ってて』
母さんの寂しい表情からは、父さんの事が大好きだという気持ちが溢れていた。