揺れない瞳
その日、央雅くんは私の部屋には寄らずに帰っていった。
お互いの思いが通じ合って以来、そういう事が多い。

央雅くんが『また今度寄るから』と言って早々に帰っていく後姿を見て、私一人が寂しいって思うのかなと、少し落ち込む。

もう少し一緒にいたいと思うのも、私一人なのかな、と。

恋愛初心者の私はため息をつく事も多いけれど、央雅くんが私に気を遣ってくれてるのもなんとなくわかってる。

央雅くんの家に二人でいる時も、抱きしめてくれたしキスだって交わしたけれど。
それ以上の事は我慢してくれている。

恋人ができたのも初めての私だから、戸惑わないよう、怖がらないよう、私の表情や言葉に気を遣いながら大切にしてくれている。

私が本当に央雅くんを受け入れられる時を、焦らず待ってくれているって、わかる。

けど。

私って貪欲なのかもしれない。

せっかく央雅くんが私を大切にしてくれているのに、そんなの、どうでもいいって思う私もいて。

大好きで大切な央雅くんの事、心以上のものが欲しいって思ってしまう。
確かに経験したことのない事だから不安は大きいけれど、本当の恋人同士になりたいって、思う。

央雅くんに抱かれる事が本当の恋人なのかといえば、それも悩んでしまうけれど……。

結局、この歳になるまでに育てておかなければならなかった幾つもの感情が欠落している私。
自分の置かれている状況だけが年相応になっていて、感情が追いつかないんだ。

私の持っている感情や気持ちの種類は、まだまだ高校生、ううん、中学生レベルなのかもしれない。

央雅くんという恋人ができたって、一気に成長できるわけじゃないのが、ちょっと悔しい。
きっと、央雅くんは成長しているから。
年齢にふさわしい経験をして、状況によって感情を使い分ける術を経験しているから。
私以外の女の子との恋愛を経て、今の央雅くんがあるっていう事が、悔しい。

側にいられれば、それだけで嬉しいなんて、思っていたのに。
それ以上を求めて、央雅くんの過去にも悔しさを感じる私。

本当、私は欲深いって思う。


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