揺れない瞳
後片付けの途中だというのに、体を動かせないまま。
ただその姿を見ていた。
一度しか会った事ないのに、きっと間違いないって確信を持ちながら見つめていると。
ゆっくりと振り返った視線にたちまち射られてしまった。
視線が絡み合った瞬間に緩い笑顔が浮かんだ彼は、迷う事なく私の側に歩いてきてくれる。
「央雅くん…」
初めて会った時よりも親しげな表情を見ると、少し緊張感も薄れるけれどそれでもやっぱり、体中がドキドキと脈打ってるように落ち着かない。
「こないだはどうも。
瞳さんの店でバイトしてるって芽依ちゃんから聞いたけど、遅くまでやってるんだな」
私の目の前に立つ央雅くんは、記憶の中と同じ笑顔。
高い背と整った見た目に他のお客さんからの視線も集まっていて、私もなんだか照れてしまう。
「あ、今日はたまたまこの時間ですけどいつもはもっと早いんです」
どうしても小さくなる声を気にしながら、それでも目だけはなんとか央雅くんに向けたままで、笑ってみる。…笑ったつもりだけど、緊張してるせいか、思うように笑えてないようにも思えるけど。
「近くまで来たから寄ってみたんだけど、もう帰れるんだろ?
送ってくよ」
「え?えっと…送ってくれるって…?え…?」
「もう遅いし、ここから駅までは結構あるだろ?」
とりたてて優しさを押し付けるわけでもなくて、普通にあっさりとそう言ってくれる央雅くんは、私の返事を待つでもなくお店の中に視線を泳がせると。
「瞳さん、もう連れて帰ってもいい?」
ちょうど厨房から出てきた加賀さんんを見つけてそう言った。