揺れない瞳

「んー。俺は、結乃と家が近いしなあ。どっちにしても今日は結乃の家に寄るつもりだから」

…は?

央雅くんの言葉がよくわからなくて、ただその言葉を頭の中で反芻するけれど、まず呼び捨てで『結乃』と呼ばれた事に驚いてしまって。
その事だけに意識は揺らされている。

男の人に呼び捨てにされるなんて慣れてなくて、なんだかこそばゆい。
施設にいた時も、『ゆいちゃん』と呼ばれるのがほとんどで、名前そのまま呼び捨てなんて滅多にない。

「俺が連れて帰るから」

もうこれでこの話は終わりだ、とでもいうような央雅くんの声は、どこか強くて。
そして、『送っていく』ではなくて『連れて帰る』という言葉に、今まで感じた事のないどきどきも。

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