揺れない瞳
「恋人の姿を自分の懐に隠しておきたい男ばっかりだったら、モデルなんて職業は成立してないよ。それでも、モデルになりたい女の子はたくさんいるし、一生懸命頑張ってくれてる。そんな彼女達のおかげでデザイナーは仕事をうまく進める事ができるんだから。男が我慢すればいいだけの話でしょ?」

「我慢すればいいだけって……。俺は芽実がミニスカートをはいたり肌の露出度が高い服を着てランウェイを歩くのなんて嫌だ。我慢しない」

「だって、私はモデルじゃないもん」

「それは違う話だろ?
今は結乃ちゃんの話だ。結乃ちゃんがこのミニドレスを着て他の男の目にさらされるなんて、央雅くんは絶対に嫌だと思うぞ」

「って奏は言ってるけど、央雅くんはどうなの?」

テンポのいい会話に圧倒されて、何も言えないままあっけにとられていた私は、はっと気持ちを正して央雅くんを見た。
芽実さんも奏さんも、央雅くんの言葉を待っていて、私一人が取り残されてるように思えておかしくなる。
モデル云々なんて、私の事なのに。

私達三人からの視線を一心に浴びている央雅くんは、それでも動じる事なく、相変わらずの余裕の笑みを浮かべている。

「結乃の見た目はモデルに向いているとは思う。一緒にいても男にも女にも注目されて振り返られてるの、気付いてたし。
可能性を試すって事で、モデルに挑戦してもいいかとは、感じる」

「え、央雅くん、そんなの嘘だよ。私が振り返られてるなんてないない」

目の前で手を横に振って否定する私に、央雅くんは苦笑した。
芽実さんと奏さんも同じく。

「結乃は、俺と一緒に歩いてる時、いつも俯いてるか、俺を見てるから、周りの様子に気付かないだけ。結乃を露骨に見てくる男を何度も睨んでた俺の事も気付かなかっただろ」

「嘘だ……」

「本当。はっきり言って、結乃は綺麗な女だよ。俺にはもったいないくらいに綺麗な女。だから、モデルに挑戦しても、うまくいくと思うぞ」

驚きのあまり言葉の出ない私の頬を、手の甲で優しく撫でてくれる央雅くん。





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