揺れない瞳
央雅くんは,覚悟を決めたように小さく息を吐いた。

「このミニドレスを着た結乃を他の男どもに見せるのは腹が立つけど、芽実さんが言うように、俺が我慢すればいいだけの話なら、我慢する。
それで結乃の可能性が広がるなら、それも恋愛の醍醐味かもな」

言った途端、苦しげに口元を引き締めた央雅くんの本音は、きっと。

私にモデルをして欲しくないんだろうって簡単にわかる。
さっき気になった『独占欲』は、確かに央雅くんの中にあるんだなと思えて嬉しくなる。
やっぱり、ちゃんと大切にされてるなあ、と実感できるこの時間がいつまでも続いて欲しいと、ついつい私の顔の筋肉は緩んでしまって仕方ない。

ふふふ……。

この場の空気に似合わない表情の私だけど、芽実さんにはその真意がわかったみたいで、私と同じようににやりと笑っていた。

「央雅くんも我慢してくれるし、結乃ちゃん、モデルしてくれるわよね」

「あ、それは……」

「え?断るの?せっかく央雅くんの了解も出たんだし、いいじゃない、私もちゃんとサポートするから。ねっ」

身を乗り出して私に頼みこんでくる芽実さんの迫力は半端なものじゃなくて、瞳はきらきら、どころか、ギラギラ。

まるで狙った獲物は逃さないハンターのようだ。
っていうことは、私って、獲物?

「私……自信がなくて……」

最後のあがきとでもいうようにぼそぼそと言葉を落とすけれど、芽実さんには全く影響せず。

「せっかくお父さんとお母さんからもらった綺麗な体なんだから、自信を持っていいのよ。何人もモデルを見てきた私が言うんだから信じて。
結乃ちゃんはモデルに向いてる。勇気出してよ」

「父さんと母さんからもらった……」

その言葉に反応して、少し体が強張った。
そんな私に気付いた央雅くんは、私の手をぎゅっと握ってくれた。
それまで余裕に満ちていた表情は消えて不安げな瞳。

「父さんと、母さん……」

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