揺れない瞳
父さんからのまっすぐな愛情を聞かされて、素直に受け止められる自分に気づいて、妙に照れくさい。そして、央雅くんの目を見る事が恥ずかしいけど、それでも見てしまう。
私が初めて好きになった人に、好きだと言ってもらえる奇跡を得られただけでも幸せなのに、お互いをお互いのものだと言える権利まで手にする事ができるなんて、少し前までの私なら想像もできなかった。

でも、それはもうすぐ現実になるのかもしれない。

ふふふ……。と、心が軽くなる。周りの事なんか気にすることもなく、央雅くんとの未来だけに気持ちを向けていると。

「見つめ合って愛情を確かめ合うのはいいんだけどね、ちょっと私の話も聞いてもらえるかな」

その声にはっとして顔を向けると、おもいっきりにやにやとした芽実さんと目が合った。奏さんと二人で、央雅くんと私の会話を全部聞いていたに違いない。

「あ、あの、すみません、で、その……ですね」

慌てる私は、一体何を言っているのか自分でもわからない。
ひたすら口をぱくぱくさせながら、言葉にならない言葉を口にするだけ。
そんな私をくすくす笑ったのは央雅くんで、おもむろに私の肩を抱き寄せると、

「ということなので、ショーの時には『佐伯結乃』でお願いします」

私の肩をぐいっと前に倒しながら、芽実さん、奏さんに頭を下げた。
突然の事に、一瞬訳がわからなかったけれど、真摯に頭を下げている央雅くんに気付いて、私も自分の意思でしっかりと頭を下げた。

「いいわよー。結乃ちゃんが出てくれるならそれでいいの。
モデル佐伯結乃のデビューになるのね。ほんと、楽しみ。」

能天気に聞こえる芽実さんの声に、驚いて顔を上げた。

「デビューって、一体……どういう事ですか?ショーに一回出るだけですよね?」

「うーん。それは難しいかも。私のデザイナーとしての勘が訴えてるのよね。
『10年にひとりの逸材だ』って。あ、結乃ちゃんの事だよ。一度ショーに出てしまうと、業界が結乃ちゃんを手離さないと思うんだな」

「そんな、まさか……。10年に一人なんて、大げさな事を」

そんな事あるわけない。どこにでもいるような見た目の私がモデルとして何度も役立つ事なんてあるわけない。冗談もほどほどにしてほしいな、芽実さん。

「冗談じゃないからねー。本気だよ」

芽実さんは、私の気持ちをよんだかのように、意地悪に笑った。

「そんな……まさか」

驚く私をよそに嬉しそうな芽実さんに呆然としていると。

「芽実さん?こんにちは。……あら?央雅くんまで。二人は知り合いだったんですか?あ、もしかして央雅くんをモデルにスカウトしてたんですか?」

私達の席を通り過ぎようとしていた綺麗な女性のその声に、私の思考は中断された。……それにしても、綺麗な人だな。








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