揺れない瞳
「久しぶりね、雑誌ではよく見かけるからしょっちゅう会ってる気がするけど。相変わらず綺麗ね」
「ありがとうございます。この服、芽実さんのデザインですよね。着心地良くて、お気に入りです」
「ふふふ。嬉しい。京香ちゃんがそうやって着てくれるだけで、いい宣伝になるわね。……あ、こちらはね」
「知ってます。央雅くんですよね。私、央雅くんのお店の常連なんで仲良くしてもらってるんです。ね、央雅くん」
長身の細い体を央雅くんに向けて、『京香さん』と呼ばれた女性はにっこりと笑った。
綺麗に施された化粧は彼女をさらに綺麗に見せ、芽実さんがデザインしたらしいワンピースから見える細い足はまっすぐに伸びていて。思わず見とれてしまう。
背中まで伸びたミルクティー色の髪は緩やかに巻かれていて、一般人ではないオーラ全開だ。
そんな完璧な女性と央雅くんは親しい間柄のようで、やっぱり気になるしどきっとする。
そっと央雅くんを見ると、意外にも落ち着いた表情で京香さんを見返していた。この表情、どこかで見た事があるような気がする。
「こんにちは。いつもお店に来ていただいてありがとうございます」
小さく笑って、あっさりとそう返した央雅くんは、特にそれ以上言う事もないように、黙り込んでしまった。
不安げにしている私に気付いたのか、視線を私に向けるとくすっと笑って
「お店のお客様なんだ。モデルの……えっと」
央雅くんは、何やら思い出せないように意地の悪い瞳を芽実さんに向けた。
「京香さんよ」
慌てながらも、おかしそうな顔を崩した芽実さんに頷いて、改めて私に向き直ると
「モデルの京香さん。時々仕事の後で大勢で来てくれるんだ」
時々、大勢、なんだかその言葉を意識して使ってるように、アクセントをつけて央雅くんは話してくれた。
私でさえそう感じるくらいだから、京香さんもそれは感じ取ったみたいで
「あら、私一人でも央雅くんがカウンターに入ってる時に行く事もあるわよ」
ちょっとトゲのある言い方で眉を寄せた。
「あ、そうでしたっけ。すみません、仕事に集中していて、細かいところは覚えていないんです」
あっさり言ってのける央雅くんの言葉に、露骨に傷ついた顔をした京香さんは、それでもすぐに綺麗な表情を作った。
自分の気持ちの変化を表に出さない様子に、私は驚いて見入ってしまう。
さすが、モデルさんだな。