揺れない瞳


元旦を慌ただしく過ごした私と央雅くんは、大学が始まるまでの数日をほとんど一緒に過ごしていた。
私が央雅くんの家に泊まる事が多くて、私の部屋に戻るのは、何か必要なものを取りに戻る時くらい。
気持ちを通わせてからは、あまり私の部屋に来なくなった央雅くんに、どうしてか聞いてみると。

『お父さんが用意してくれた部屋だと思うと、監視されてるような気がして複雑だから』

と苦笑していた。
笑って、冗談めかして言ってるけど、私との結婚を考えている今、父さんにこれ以上の援助を受ける事への抵抗もあると思う。

まだ学生の私達。
おまけに医学部に通う央雅くんはあと5年以上学生のままだ。

これからどんどん大学も忙しくなっていくだろうことは簡単に予想できる。
結婚すると決めてから聞くのもおかしいけれど、やっぱり気になるのは生活。

央雅くんも、今は両親に頼るしかないと腹をくくっているみたいで、

『両親はほとんど家を空けてるし、俺の家で同居でもいいか?』

と言っている。

央雅くんのご両親に仲良くしてもらっている私には拒む理由もなく、逆に申し訳なさばかりが大きくなるけれど。
学生の間は央雅くんの家で同居させてもらう事になった。

そして、央雅くんも私も、引っ越しはいつにしようかと、相談しながら新しい生活にわくわくしていたし、順調に進んでいると思ってた。

ううん。全てちゃんと順調に進んでいたんだけど。

決定事項を父さんに報告した途端。

『同居だと?そんな事、絶対に許さないぞ』

呆れる愛子さんの横で顔を真っ赤にしながら怒る父さんによって、全てが白紙となってしまった。




< 394 / 402 >

この作品をシェア

pagetop