揺れない瞳
* * *
「おはよう。朝ごはんできてるから食べてね。あ、央雅が前に欲しがってた専門書?よくわかんないけど、出版社の人が探してくれてテーブルに置いてるから見てね」
ベッドでねぼけている央雅にそう言いながら、その整った顔を指先でなぞる。
どんな時でも整っている顔だな。寝顔でさえ綺麗な男。それが私の旦那様。
初めて会ってから3年が経つのに、全然変わらない容姿は人目を引いて(特に女子)嫉妬させられたり不安になったり、少なからずあったけれど。
お互いを大切に思う気持ちは変わらないまま、順調に日々を送ってきた。
私はこの春大学を無事に卒業して、本格的にモデルの仕事を始めている。
芽実さんの会社のショーに出て以来、いくつかのモデル事務所から声がかかるようになって、芽実さんが太鼓判を押してくれた事務所に所属している。
偶然にも、その事務所には京香さんも所属していて、時には甘く、ほとんど厳しく私を鍛えてくれた。
私が本気を出せば本気で応えてくれる京香さんは、今では世界中のデザイナーから声がかかるトップモデルとなっている。
『央雅くん以上の男、見つけた』
そう言って笑いながら紹介してくれた男性と最近結婚した時は世間をあっと言わせて事務所も大わらわだったけど。
温和でおっとりしたその男性は、心底京香さんが大好きなようで、二人のあつあつぶりに事務所も仕方なく了承した。
『うちの事務所って、売れてるモデルみんな人妻になっていくよ。困った』
マネージャーが私を睨みながらそう嘆く。すみません。
でも、自分には全く向いていないと思っていたモデルの仕事が天職じゃないかと思い始めて以来、一生懸命頑張って、ようやく雑誌の表紙も飾れるようになったし、ショーに呼んでもらえる機会も増えた。
そんな毎日が楽しくて仕方がない。
『ね、私の目に間違いはなかったでしょ?』
ふふん、と満足げに笑う芽実さんには感謝しか浮かばない。
私の人生を変えてくれた彼女のおかげで今があるんだ。
本当に、ありがたい。
そして、あの時最終審査に残ったウェディングドレスは、私に色々な未来を作ってくれた。