揺れない瞳
ようやく起き上がった央雅は、眠そうに目をこすりながら、空いている手で私を抱き寄せた。
「だめだよ、私遅刻しちゃうよ……」
央雅の胸に両手を置いて押し返すけれど、いつもの通り結局無駄で、気付けば抱きしめられている。
その温かさに気持ちは緩んで、私も思わず目を閉じてしまった。
いけないいけない。撮影に遅れてしまう。
今日は、ずっと目標にしていた雑誌の表紙撮影。
認められたモデルしか飾れない名誉ある表紙。
ようやく、ようやく、だ。
だから、だめなのに。
遅刻しちゃ、だめなのに。
央雅の体温が私に移ってきて、離れたくない。
そっと、央雅の背中に両手を回して、抱きしめた。
同じように抱き返してくれる彼の力に幸せを感じながら、力も満ちてくる。
本当に、大好き……。
ゆっくりと体が引き離されて、見つめ合うと、その整った顔が近くなる。
自然と閉じる瞼。
感じる吐息。
唇に落ちてくる熱。
優しく撫でてくれる背中越しの指先。
その動きに応えるかのように、私の体全てを央雅に預けたその時、
『ピンポーン』
玄関のチャイム。
その音に反応して慌ててベッドから飛び降りた。
そんな私を恨めしげに見つめる央雅に照れ笑いを残しながら。
「マネージャーだ、行かなきゃ。ごめんね。今日は早く帰れるから、また夜ね。じゃ、行ってきまーす」
ばたばたと寝室を後にした。