揺れない瞳
「またマネージャーに怒られるよ」
カバンを持って、玄関で急いで靴を履いていると、背中越しに央雅に抱きしめられた。
「俺も、今日は早いから。ゆっくり、しような」
首筋にそう呟く央雅の言葉の意味に真っ赤になりながら、
「うん、ゆっくりとしようね……あ、ちがう違うんだけど……」
「ゆっくりが嫌なら、どんなのがいいんだ?手加減なしとか……?」
くくくっと笑う央雅は、私を抱く手を緩めて、向きを変えさせた。
向かい合う私の唇に、軽く触れるキスを落とすと
「今日撮影する雑誌、楽しみにしてるから、いい顔して撮ってもらって来い。
モデル佐伯結乃は、これからだからな」
ポンポンと頭を撫でてくれた。
撮影で緊張しがちな私の気持ちをほぐすおまじない。
いつもそうやって撫でてくれる。
そして、私から、央雅の唇にキスを返す。
背伸びするのにも、慣れた。
ふたりして微笑みあって。
「行ってきます」
二人の幸せな朝はこれからも何度も続いていく。
この幸せを信じる二人の瞳は、決して揺れないんだ。
永遠に。ずっと。
【Fin】