揺れない瞳
心臓の音だけが私の周りに残って、後は無の世界が広がっていく。
足元もふわふわと浮いているようで、不安定に立ち尽くしてる。

どう拒否しても抗えない、私とよく似た顔だちに諦めと苦しさがあふれながら。

噛みしめる唇の痛みだけが、今の私に残された、感覚だ。

「結乃……?」

私の腕を掴む加絵ちゃんの声が遠くから聞こえてきて、少しずつ戻りゆく意識。

まるで夢から覚めていくようなゆっくりと進む時間の中で、それでも。

目の前から消える事のない姿が、この瞬間は夢じゃないって教えてくれる。
私を見つめるその瞳も苦しそうで、ほんの少し浮かんでいる笑みも切ない。

「結乃?あの人……知り合い?」

心細げな加絵ちゃんの声が、なんだか違う世界から届くように私の耳に入ってくる。

「私の……父親」

ようやく告げたかすれ気味のその言葉。
まるで自分に言い聞かせるように響いた。


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