揺れない瞳
通りを挟んで、見つめ合う時間は多分ほんの少しだと思うけれど。
私にとってはかなり長い時間。
スーツを着こなしたその男性は、長身で。
どちらかというと華奢な体は私に似ていて……違う、私が似てるのか。

まだ38歳だという年齢以上に若く見える容姿は、仕事も家庭も充実しているせいかなと、ほんの一瞬に色々な事が頭に浮かぶ。

「悪い。少しでいいから時間もらえないか?」

「…どうしてですか?」

「話がしたい」

通りを渡ってきた彼は、私の様子を気にしながらも強い思いが感じられる声で私に話しかけてきた。
隣の加絵ちゃんは、私の腕を掴んだまま離さない。
初めて見る私の『父親』という存在に驚きながらも私を心配してくれているのがわかって心強い。

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