揺れない瞳
「私には話なんてありません。毎月の仕送りを止めるならそれでもいいですし、マンションを出ろというならすぐに出ます」
低い声で、まるであらかじめ用意していたような滑らかさで思わず出た言葉に自分でも驚く。
「違う。そんな事じゃない。……ちゃんと話をしたいんだ。
一緒に…くら」
「無理です。話す事なんかないんです。もうここにも来ないでください」
彼が言いかけた言葉の先がわかって、遮るように思わずきつくなってしまった。
何度も言われてきた言葉が思い出されて、悲しくなる。
どんな真意で言い続けてきてくれるのかわからないけれど、これまで弁護士さんが間に入って繋いできてくれた彼の心を直接伝えられようとして。
「私の気持ちは戸部先生に伝えていますから……。
これからもその気持ちは変わりません……」
そう言って拒む以外に私には何もできない。
たとえ血が繋がっていても、今更一緒には暮らせないに決まってるのに。