揺れない瞳


「結乃……俺は諦めないぞ。本当なら、もっと早く引き取ればよかったのに」

「もう、いいんです。今していただいてる事だけで、十分です。
愛子さんにもよろしくお伝えください」

「……」

もっと話したいという気持ちを表情から消そうとしない彼から視線を落とすと、そのまま軽く頭を下げた。
これ以上話し続ける自信もないし、泣かない強さもない。

「何かあれば、戸部先生に連絡して下さい」

震える声でそう言うのが精いっぱい。
下げた視線を、彼に戻す事はなく体の向きを変えて。
彼の前から消えようと歩きだしたけど、その瞬間に掴まれた左腕。
ぐっと力を込められた彼の手の温かさが直接伝わってきて泣きそうになる。

「結乃、今更なのはわかってるが、どうしても一緒に暮らしたいんだ。
お前を手離したこと、後悔しなかった日はない」

「無理です。私は、今のまま一人で暮らしたいんです」

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