揺れない瞳
ゆい…。
それは私が幼い頃に両親から呼ばれてた名前。
ただ単純に毎日が楽しくて、両親の不和や自分が生まれてきた意味を知らずに笑っていた頃。
私の人生の中で、ほんの少しだけ幸せだった時期。
短い幸せの象徴だったその呼び名は、切ない記憶を一瞬にして呼び起こして体は震えて止まらない。
我慢していた涙もとうとう零れ落ちる。

「そんな名前…。知らない…」

彼が掴む腕をほどいて、そのまま。

振り向かずにただまっすぐに歩いた。彼から早く離れたくて、離れたくてただそれだけ。

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