揺れない瞳
私が小さな頃。
幼稚園に慣れてしばらくの頃。
両親は離婚した。
幼い私の親権は母親のものとなって、母親と二人で暮らし始めた。
その頃、成人したばかりの母にとって私は唯一の家族だった。
母は家族を小さな頃に亡くしていて親戚の家で育てられた。
大切に愛情を持って育ててくれたらしい身内の中で、それなりに温かい想いを抱きながら育ったらしいけれど、やっぱり実の親ではない身内に対しての距離は縮む事はなくて、父と出会ってすぐに安らぎを求めたらしい。
そして、16歳で妊娠。
当時父は18歳。
ようやく婚姻が認められる年齢、それぞれが高校、大学に進学して間がない頃。
将来への希望を中断させての結婚だった。
二人は私の存在を喜んでくれたと思う。
何枚か手元にある幼い頃の写真で笑う私は幸せそうだから…。
両親も、若さが前面に出てはいるけれど、ちゃんと親の顔をしていて。
私は望まれてこの世に生まれてきたと思える唯一の写真。
それでも、若い二人には将来への不安と夢があった。
母は画家になりたくて、どうにか美大に進学。
父は実家の会社を継がなくてはいけなくて、大学卒業後忙しくなった。
二人がそれぞれの人生を歩み始めたと同時に、私の存在は重荷になっていった。
保育園に預けられて、忙しい両親からの愛情も優しさも殆ど受ける事もなくなっていった。