揺れない瞳

「あ…電話…?」

ぼんやりと自分の世界の入り込んでいたせいか、不自然な格好でソファに座っていた私の体はかたまってしまって、遠くから聞こえる携帯の音に反応するのも鈍い。

足元に置いてある鞄から携帯を取り出すと、

『佐伯 央雅』

暗い世界に入り込んでいた気持ちはそのままだけど、一気に現実を感じて体を起こした。

「央雅くん…」

表示される画面をしばらく眺めながら、どうしようどうしようと、何に戸惑っているのかすらわからないままに混乱して、鳴り止まない音に後押しされるように通話ボタンを押した。

「もしもし…」

『あ、央雅だけど。今から迎えに行くから帰るなよ』

飛び込んできた央雅くんの声は、どこか外からかけてきているようにざわざわとしている。
今日バイトだって、言ったっけ…?
言ってなかったように思うんだけど…。

「あの…迎えはいいです…」

『は?またほかの男に送ってもらうわけ?』


< 63 / 402 >

この作品をシェア

pagetop