揺れない瞳
「あ…電話…?」
ぼんやりと自分の世界の入り込んでいたせいか、不自然な格好でソファに座っていた私の体はかたまってしまって、遠くから聞こえる携帯の音に反応するのも鈍い。
足元に置いてある鞄から携帯を取り出すと、
『佐伯 央雅』
暗い世界に入り込んでいた気持ちはそのままだけど、一気に現実を感じて体を起こした。
「央雅くん…」
表示される画面をしばらく眺めながら、どうしようどうしようと、何に戸惑っているのかすらわからないままに混乱して、鳴り止まない音に後押しされるように通話ボタンを押した。
「もしもし…」
『あ、央雅だけど。今から迎えに行くから帰るなよ』
飛び込んできた央雅くんの声は、どこか外からかけてきているようにざわざわとしている。
今日バイトだって、言ったっけ…?
言ってなかったように思うんだけど…。
「あの…迎えはいいです…」
『は?またほかの男に送ってもらうわけ?』