揺れない瞳

落ち込んだ時にはいつも、何も考えずに編み物をしてしまう。
細かい編み目に意識を集中しながら編み針を動かして、少しずつ浮かび上がる模様と共に心も浮上させる。

深夜になって、とりあえずお風呂で心身共にリラックスさせてもまだ気持ちは完全ではなくて。
お気に入りのアロマをたきながら、編み物を始めた。
夕飯も食べていないことにも気付いたけれど、食欲もないし一食くらい食べなくても平気。
とにかく、自分なりに気持ちを浮上させないと明日も落ち込んだまま学校に行くことになるから。

私が母親から愛情をかけられていない事実を知りながら、引き取る事を拒んだという父親の存在を、普段と同じように消してしまいたい。

罪悪感からか、高校を卒業して就職しようとしていた私を大学へと進学させ、住むところも用意してくれた事には感謝しているけれど。
どういう理由から突然そんな事をしてくれたのかを考える事すら体が拒むくらいに、私は父親を受け入れられない。

だから、今日みたいに突然目の前に現れると、私自身が砕けそうになって体は痛みを覚える…。

だから、その痛みを逃がすように…。

必死で編み針を動かし続ける…。
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