揺れない瞳

集中して編み針を動かして、ようやく編みあがったのはクリスマスツリーのモチーフ。
手のひらに収まる小さなツリーの行先は芽依さんの娘さんの夏芽ちゃん。
まだ一歳にもならないかわいい小さな夏芽ちゃんは12月生まれ。
今度行く時に持って行こうと思いながら編んでみた。
思ってたよりも可愛い仕上がりに自分でもほっとした。

夏芽ちゃんが喜んでくれるといいな…。

ぼんやりと、ようやく気持ちが落ち着いてきたなと安心しながら、眠気も襲ってきて。
そろそろ寝ようと考えていた時。

携帯が鳴った。

ソファに投げたまんまの携帯を慌てて手にして、発信者を確認せずに通話ボタンを押してしまった。

「はいっ…もしもし」

既に日付も変わってるのに誰からだろ。
加絵ちゃんかな…。

「俺。央雅。今外にいるから玄関のドア開けて」

「は?」

「だから、玄関の前にいるから、開けて」

普通に。これまで何度もそういう事が私と央雅くんの間にあったかのように、軽く聞こえてくる言葉に、思わず黙り込んでしまう。
今耳に入ってくる言葉の意味がよくわからない。

何で…?

「早く開けないと大きな音をたててドアたたくぞ」

「やだっ。たたかないで…」

「だったら開けて」

…なぜ?どうして?一体どうしたの?
じっと玄関の方を見ながら、どうしようかと悩む私だけど。

このまま悩みながらもきっと、ドアを開けてしまうんだろうな…と感じる自分が見え隠れして、その感情の根っこにある央雅くんへの小さな想いから目をそらしたくて仕方なかった。

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