揺れない瞳


こんな深夜に訪ねてくる央雅くんの真意がわからなくて、ドアを開けたものの部屋にあげていいのかもわからずに。

無言のまま央雅くんを見ているだけ。
ジーンズにグレーのパーカーを羽織った長身は、一日の終わりをとっくに過ぎても爽やかで、私を見下ろすような視線の厳しささえ格好良く見える。

「芽依ちゃんに誓って何もしないから、部屋に入れて」

「えっと…それは…」

淡々とした央雅くんの言葉に驚きながらも、そんなの無理で…俯きながら拒否の気持ちを体に漂わせてみても。

「このシュークリームが好きだって芽依ちゃんから聞いたから、一緒に食べよう」

「でも…やっぱり…」

無理って言おうとする私を無視して、央雅くんはさっさと玄関に入ってきて、はっと驚く私に構う事なく部屋の奥へと。

「ちょっと…央雅くん…」

慌てて後を追うけれど、私の様子なんて気にしないようにさっさとパーカーを脱いでソファに投げ捨てた。
肩にかけていたリュックも置いた後、部屋の様子を見回してる。
最初にコンパで会ってから数日、医学生だという肩書き通り頭の回転も速いし会話も楽しいっていう印象はそのままだけど、こんなに強引な人だとは思わなかった。

バイト先に突然やってきて、ほとんど無理矢理家まで送ってくれて。
これからも晩は送るって決めてしまうし。

今だってこんな夜遅くに勝手にやってきて上がり込んでる。

芽依さんも綺麗な人で、旦那様の夏基さんはめろめろな気持ちを隠そうともしないバカップルぶり。
そんな芽依さんにどことなく似ている央雅さんはやっぱり整った容姿をしている。
すっとした立ち姿も見とれるほど。

「…わけわかんない…」

そんな、見た目も将来性も文句ない、央雅くんが。

今ここにいる事は、どう考えてもおかしい。
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