揺れない瞳
誘導されるように私の両手は央雅くんの背中に回された。
見た目よりも筋肉質で固い背中は、初めて知る男の人の背中。
男の人と近い距離で生きてきた事がなかったから、こうして抱き合って初めて知る男の人の体。
その感触は、とても愛しくて暖かくて、その背中から離れたくないと願ってしまうくらいに私に馴染んでしまった。
「…結乃は、違うんだよな…」
「え…?何?」
不意に聞こえた苦しげな央雅くんの言葉。ぼんやりとしていたせいで、聞き逃してしまったけれど、決して央雅くんにとって気分の良くなる言葉じゃない事は感じる。
だからちゃんと聞かなきゃ、と思ったけど、
「…なんでもない。…悪い。結乃を傷つけるつもりはないから。もう少しこのまま」
私の首筋に顔を埋めたままの央雅くんは、何かつらそうに見えるけれど、今聞いても何も答えてくれそうにない。
いつの間にか涙も止まって、この状況って一体どういう事なのか混乱しっ放しの頭の中に残る言葉。
央雅くんがなんでもないって言った言葉の断片。
『結乃は、違うんだよな…』
って聞こえた気がする。ほんの一瞬流れて言った言葉だけど、確かにそう聞こえた。
思い出した何かを浮かべて、思わず出てしまったような言葉。
優しかったり冷たくなったり弱くなったり…。
今日見せられた央雅くんの色々な顔だけど、どれも共通して漂っているのは。
どこか投げやりな寂しさ。
気になる。
私は何が違うのかも気になるし、寂しい雰囲気も気になる。
でも人間関係が希薄な人生を歩んでいる私には、だからといってどうしていいのかわからない。
央雅くんにどう接していけばいいのかどうしたいのかも浮かばないから…。
それでもなんとかしたくて、思わず力を込めた。
央雅くんの背中に回した私の両手で、力いっぱい央雅くんを抱きしめた。