揺れない瞳

「私は実家を継ぐよ」

あっさりとそう話す加絵ちゃんの言葉に迷いは感じられなくて、今急に決めたわけじゃないんだってよくわかる。
実家が呉服屋さんの加絵ちゃんは、家業に興味のないお兄さんの代わりに跡継ぎに立候補したらしい。

ご両親は、長男であるお兄さんに跡を継いでもらうつもりでいたらしいけれど、お兄さんにそのつもりは全くなくて。
高校卒業と同時に家を出て、大学で遺伝子の勉強を思う存分にしているらしい。

大学院にまで進んだお兄さんはその分野では有名な教授のもとで研究に励み、実家を継ぐ可能性はゼロになってしまった。

「兄貴が家を出てくれてラッキーだったんだ。私、着物にも着物にまつわる歴史にもすごく興味があるし。
こんな事言うのもおかしいけど、敷かれたレールが呉服屋に続いていて良かったと思ってる。
実家を継ぐのが私の目標」

迷うことなく言い切る加絵ちゃんの表情には頑固な決意が見えていて、ほかに気持ちが揺れるなんて考えられないみたい。

自分の望む道へ進もうとしている加絵ちゃん。
それを周りも望んでいるという状況が、少し羨ましい。

家族のいない時間を送る私には、家業を継ぐ感覚は理解しにくいけれど、加絵ちゃんが見せる様子の明るさを見れば。

少なくとも加絵ちゃんには幸せな事だろうって納得してしまう。

将来の役にたつからと選んだらしいこの大学。
被服の勉強以外にも、世界各地の民族服や生地の歴史。

呉服に限らず幅広い知識を得て、お店の為に力を発揮したいと熱く語るのにも慣れた。



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