揺れない瞳
家族のいない私に家業なんて問題外だけど、将来就きたい職業すら何も浮かばない私には、加絵ちゃんの人生が羨ましくて切ない。
ずっと一人だった私が、この先も一人で生きていけるように。
しっかりと未来を考えなきゃいけないのに…。
毎日をこつこつ地味に過ごして、寂しさやつらさを極力感じないように、それだけの為に力を注いでいる私には、明るい未来は想像できない。
これまで見捨てられることに慣れていた私に、単に大学を卒業する事だけで幸せな未来が目の前に広がるとも思えなくて、本気で未来を考えられない。
どんな仕事に就いてもきっと、一人のまま生きていくことに変わりはないって思うから。
逆に、なんでもいい。
仕事なら何でも・・・。
私にとって仕事は、生きる為の手段にしかすぎないから。
そんな思いは、やっぱり切ないし悲しいし、どうして私がこんな苦しみを抱えなきゃいけないのって…。
いつもは考えないようにしている思いも、将来っていうものを考えなきゃいけないこの頃は、どうしても体のどこかに漂っている。
両親から捨てられてしまったあの日から、閉じようとしても完全には閉じる事のできない悲しい気持ち。
折り合いをつけながら生きてきたけど、その上手な逃げ方も、なんだか危うい…。
大切な人から捨てられる悲しみを二度と味わいたくなくて、気付かないふりをしていたけど。
大切な人を求めてしまう感情が体に染みてくる。
きっと…大切になってしまいそうな人に出会ってしまったから…。