家族になろうよ!

俺の母親は、俺を産んですぐに家を出て行った。

なぜだか理由は知らない。

母性という本能を踏みにじってまでして産まれたばかりの小さな赤ん坊を置き去りにできたくらいだから、相当の何かがあったのだろう。

俺としては今更そんなことはどうでもいいのだけれど。


そうして乳飲み子だけを残された親父は長距離トラックの運転手を生業としているため家を空けることが多く、つきっきりで子供を育てるなんてできなかった。

そこで早くに夫を亡くして一人暮らしをしていた祖母に、俺は育てられることになった。

しかしこの婆さん、どうにもこうにも性根の曲がった口の悪い人間で。


あの女、よくもうちの息子をたぶらかしてくれたもんだ、あの子もあの子だよ、あんな女に騙されて、あの女の血が混ざってるんだから、きっとアンタもロクな人間じゃないはずだよ、ああ、どうしてこんなしようもないガキの世話を私が押しつけられなきゃならんのだろうね、いやだいやだ、アンタ早く手がかからないよう大きくなっちまいな、面倒でしょうがないよ……


親父は週に一度帰って来れば良い方。

こちらを見向きもせずに罵詈雑言を唱え続ける婆さんとほとんど二人きりの毎日。

当然俺は家にいるのが嫌になって、子供ながらに、いや子供だからこそ追いつめられて、行き場がなくて、いつしか近所の公園で一日中時間をつぶすようになった。

蟻の行列を観察したり、石ころを拾って並べたり。

遊具で遊ぶこともなく、すみっこでじっとしている幼児を、近所の奥様方がいぶかしげに見ていることを俺は知っていた。

きっと柄の悪い婆さんとセットで、噂話のネタにされていたに違いない。

たまに声をかけてくれる人もいたが、心配しているように見せかけて本当に助けてくれようとはしなかった。

たぶん良心を満足させたいがためだけの自慰行為だったのだろう。

子供は大人が思うよりずっと敏感で聡いもの。

物心つく前から婆さんの悪意に晒されてきた俺なら、自慢にもならないが、なおさら不穏な空気を察する能力には長けていた。

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