家族になろうよ!
エレベーター前のベンチに座って二人、肩を並べる。
母親がいないこと、家が貧乏なこと、一風変わった母子と家族になろうとしていること。
我が家の事情をすべて明かした俺は、掌を、額を、膝の裏を、汗で濡らしていた。
信じてもらえる。
分かってもらえる。
早乙女那美を信じているけれど、やはり恐いものは恐いんだ。
「そうだったんだ……」
ため息交じりの彼女の第一声は、感嘆とも同情とも呆れとも受け取れるようなもので、俺は拳を強く握り締めた。
なかなか次の言葉を聞かせてもらえない。
不安が強すぎて、つい自虐に走ってしまった。
「格好悪いよな、団地住まいの貧乏暮らしなんて」
ははは、と笑って見せる。
嫌われたくないと思う人を相手にするほど、臆病が隠せなくて情けない。
そんな俺へ、早乙女那美は静かに問いかけてきた。
「それって、悪いことかな」
何を言われたのか、すぐに理解できなかった。
貧乏は悪いことに決まってるじゃないか。
みんなが自慢げにぶら下げてるブランド物のバッグも、財布も、アクセサリーも、休み明けに声高に語られる海外旅行の土産話も、金がなきゃ手に入らない、話の輪に入れない。
そんなもん興味ないと言っても、先立つものがなけりゃ負け犬の遠吠えにしかならないんだ。
「良いことのわけないよ。みんな周りは親が医者や社長とかで、贅沢に生きてる。そんな世界の人間は俺みたいなのを馬鹿にするに決まって……」
「私はそんなふうには思わない」
俺が言い切る前に、早乙女那美は聞いたこともない強い声を被せてきた。