家族になろうよ!
心臓が早鐘を打つ。
息が苦しい。
声が、出ない。
「斗馬クンさ、あの二人とちゃんと向き合ってないでしょ」
凌の肩を掴んでいた手が、落ちた。
「たしかに斗馬クンは人間不信なところがあるから、今の状況は厳しいと思う。でもさ、話を聞く限り、彩花さんも優子ちゃんもそんなに悪い人には思えないよ。ご飯作ったり、お洗濯してくれたりするんでしょ?二人とも頑張って斗馬クンと仲良くなろうとしてるんじゃない?それなのに、斗馬クンは二人のこと他人としてしか見てない。人として付き合おうとしてない。酷い目に遭った思い出に縛られて、決めつけて、面倒臭いからって逃げてるように見える」
違う?
そう問いただされ、耐えきれずに目を伏せた。
そうなのか?
俺は、逃げてるのか?
……駄目だ、頭が真っ白だ。
小さな溜息が聞こえて、胸を貫かれたような衝撃が走る。
もしかして、呆れられちまったのだろうか。
不安に沈みそうになるが、しかし。
「まあ……斗馬クンも混乱してるんだよね」
耳を塞ぎたい衝動を必死に堪えて聞いた声は、予想していたものよりも柔らかかった。
「おじさん達もずるいよね。斗馬クンが拒否できないような状況を作ってさ。だけど、もう一緒に暮らし始めてるんだから、不平不満ばかりじゃどうしようもないよ。はっきり結婚に反対だって言えないなら、少しずつでいいから歩み寄る努力をしないと。このままストレスを溜め続けていずれ爆発したら、彩花さんや優子ちゃんが傷つくし、何より二人を傷つけた斗馬クンが気に病んじゃいそうで心配なんだ」
視界が歪む。目が熱い。
「斗馬クンは、優しいからね」
俺は膝を抱え、そこに顔を埋めた。
「……おまえ、ほんとうるさい」
「ごめんごめん」
頬ずりの代わりなのか、背中をなでられる。
何も言わない俺の隣に、凌は日が暮れるまでずっといた。