家族になろうよ!
涙を流す者などなかったのは言わずもがなである。
特に感慨深いこともなく、また休み明けに会いましょう、というライトなノリで俺の中等部生活は幕を下ろした。
放課後、女子達は卒業アルバムにメッセージを書き合いっこして、それらしい雰囲気を楽しんでいたようだが、厄介なことに巻きこまれたくない俺は速攻で家路についた。
築四十年の四階建て公営団地、十二棟の三階が俺の住み慣れた我が家である。
神世はその広大な敷地を確保するために市街地から離れた山のふもとにあるのだが、この団地はそこからほど近い。
こんなしみったれた所に住んでいることなど知られたくないので、帰宅するときは神世の人間に見られないように毎度細心の注意を払っている。
よし、同じ制服を着た人間は見当たらないな。
確認すると、俺は猛ダッシュで団地の敷地へ突っこんで行き、慣れ親しんだ狭い階段を駆け上がった。
帰宅して真っ先に向かうのは、冷蔵庫。
一リットルのパック牛乳を開封し、そのまま一気に飲み干す。
白い液体のまったりとした喉越しを味わうと、ああ帰って来た、と実感する。
どうして牛乳を、だなんて野暮なことは聞くもんじゃない。
ひとつだけ言うのならば、怠け者の俺に努力をさせてしまうほどにコンプレックスというものは大きな力を持っている、ということだ。
努力の成果は今のところ現れる気配もないけれど。