家族になろうよ!
「おかえりなさい」
ドアが開く音を聞きつけ、優子がいそいそと玄関までやってきた。
いつもは出迎えまではしないのに、今日に限ってそうする理由はひとつしかない。
「今日、神世に来ただろう」
「はい」
紫黒の瞳がまっすぐに俺を見つめてくる。
何かを期待しているかのように。
「学校はどうしたんだ」
「振替休日だったので」
何の、とは聞かなかった。
そんなことはどうでもいいんだ。
ともすれば爆発してしまいそうな感情を、必死に押し殺して俺は言った。
「……もう、今日みたいなことはしないでくれ」
至極冷たい声色になったが、怒鳴らなかっただけ褒めてほしい。
優子は別段表情を変えることもなくて、ますます忌々しさが募る。
「ごめんなさい……」
謝られたってどうしようもない。
俺は蹴り出すように靴を脱いで優子を横切り、いくつも歩かぬ距離にある冷蔵庫を開け、牛乳を一気飲みした。
それくらいで落ち着けるはずもなく、空になった牛乳パックをゴミ箱にねじこみ、気分転換にコインランドリーへ行くことにした。
私服に着替え、三日分の衣類が入った大きな袋を抱えて自室を出ると、玄関に突っ立ったままだった優子がまた頭を下げてくるから鬱陶しい。
「もういいから」
適当にあしらって靴を履こうとしたら、さっき脱ぎ散らかしたはずのスニーカーが綺麗に揃えられていた。
腹が立つ。
わざと人の神経を逆なでしようとしているだろう。
俺は堪らず舌打ちした。