家族になろうよ!


登校している最中から、周囲の視線がいつもと違った。

からかってくる女子も一人もいない。

その代わり、似たような会話の断片が風に乗って聞こえてきた。


彼女。

年上の。

同棲。

ほんとに?……


意外。

あの顔で。

やっぱり。

してるのかな。……


教室でもそれは同じで、予想していたことだから俺は平静を保って席に着いた。

これはしかたのないことだ。

俺だって誰かがこの歳で同棲していると聞いたらそいつを白い目で見るだろう。

でも。


「あ、おはよう……」


毎朝元気な笑顔を見せてくれていた早乙女那美が、挨拶はかろうじてしてくれたものの、そのあとすぐさま席を離れていってしまったのは、さすがに堪えた。

逃げられるって、こんなにきついんだな。


「人の噂も七十五日」と言っても、一度貼られたレッテルは消えない。

失った信用を取り戻すのも、誤解を解くのも難しい。

早乙女那美が笑いかけてくれることは、もうないのだろうか。


「おう『斗馬さん』、顔色悪くね?もしかして彼女が寝かせてくれなかったとか?」


あの勘違い野郎が、わざわざ今日もちょっかいを出してきた。

拡声器よろしくこんな話を広めて、そんなに面白いものか?もしかすると、こいつはもともと俺をよく思ってなかったのかもしれない。

女子にからかわれているのを見て俺がモテていると勘違いする輩は結構いるようだから。

でも、ここぞとばかりに俺を攻撃したって、自分がモテるようになるわけじゃないのに。

可哀想な奴だ。

相手をしてやる気力もなくて黙っていたら。

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